2023.01.30
スキママネジメント運営部
・インボイス制度の全体像を掴みたい
・インボイス制度の自分への影響を知りたい
・インボイス制度の考慮すべき点を知りたい
目次
インボイス制度が始まると、個人事業主の仕事がなくなるとの声が各所から出ています。結論から言えば、次のようになります。
自身がどのような影響を受けるのかを知るためには、インボイス制度の詳細を理解しなければなりません。そこで今回は、インボイス制度の詳細や個人事業主への影響について詳しく解説します。
前提知識として、「インボイス」は「適格請求書」のことです。適格請求書は、売り手が買い手に対して、消費税額や適用税率などを伝えるために発行します。一般的な請求書に下記を追記したものが適格請求書です。
そしてインボイス制度(正式名称:適格請求書等保存方式)とは、適格請求書がなければ「消費税の仕入れ税額控除」ができなくなる制度です。
消費税の仕入れ税額控除とは、消費税を納める義務がある「課税事業者」が売上にかかる消費税から仕入れにかかった消費税を差し引き、消費税を二重に納めてしまうのを防ぐことができる制度です。
従来では、仕入れであることを明記した請求書と帳簿を保存するだけで、仕入れ税額控除を適用できました。
しかし、インボイス制度が始まると、適格請求書がなければ仕入れ税額控除を受けることができなくなります。そのため、買い手は売り手に適格請求書の発行を求めます。
それでは、なぜ買い手が売り手に適格請求書の発行を求めることで、個人事業主の売り手は仕事がなくなるといわれているのでしょうか。
それは、適格請求書を発行できるのは課税事業者のみであるためです。
まず、課税事業者と免税事業者について確認していきましょう。
課税事業者……消費税の納税義務がある事業者
免税事業者……消費税の納税義務が免除されている事業者
前々年度の課税売上が1,000万円以上の場合は、課税事業者となります。また、前々年度の課税売上が1,000万円を超えていなくても、以下の2つの条件をいずれも満たす場合は課税事業者に該当します。
なお、上記の条件を満たしていなくても、申請すれば課税事業者になることができます。しかし、消費税の納税義務が免除されている免税事業者が、消費税を納める必要がないにもかかわらず課税事業者に自らなることは考えられませんよね。
ここに、インボイス制度が絡んでくるのです。
適格請求書を発行してもらわなければ、買い手は消費税の仕入れ税額控除ができません。そうなれば買い手は消費税を二重に納める形となり、損をしてしまいます。
あなたが買い手だとすればどうしますか?
消費税の仕入れ税額控除を適用するために、適格請求書を発行できる課税事業者とだけ取引しようと考えませんか?
そして、免税事業者である売り手は、適格請求書を発行するためにやむを得ず課税事業者に変更し、本来は納税する必要がなかった消費税を納めることになるのです。
それでは、インボイス制度によって起きる可能性がある問題について、詳しくみていきましょう。
前述したとおり、免税事業者は適格請求書を発行できません。それを理由に取引を断られてしまうと、売上が低下します。ちなみに政府は、免税事業者であることを理由に取引を停止しないように求めていますが、買い手がそれに従うとは限りません。
また、取引を継続する代わりに課税事業者になるように求め、それを断った売り手との取引を停止すると、独占禁止法および下請法違反になるおそれがあります。
これも違法だからといって、行われないとも限らないでしょう。
他に何らかの理由をつけて取引を断られる可能性もあります。
課税事業主に変更する場合、その申請が必要です。また、請求書フォーマットの変更やインボイス対応のシステムへの切り替え、取引先への適格請求書の発行が必要・不要の確認など、さまざまな事務作業が発生します。
また、消費税を納めることになれば、その計算や帳簿付け、申告も必要です。
今度は、売り手の立場に立って考えてみましょう。
課税事業者の条件を満たしていないけれど、適格請求書を発行しなければ取引を断られるかもしれないとすれば、あなたはどうしますか?
本来は消費税を納める必要がないのに、課税事業者になろうと考えるのではないでしょうか。課税事業者になると、これまで利益として受け取っていた消費税を全額ではないにしても国に納めることになります。
これは、控除など全く考えない場合の話ですが、消費税10%であれば、消費税の納税によって所得が10%低下します。例えば、600万円の利益が出ていた人は、消費税の納税によって60万円も収入が減少します。これを月々に換算すると、1ヶ月あたり5万円の収入が低下することになるのです。
消費税を納める必要がないのに課税事業者となり、消費税を納めることになったとしても、それほど大きな影響はないのでは?と考える方も多いのではないでしょうか。
確かに、600万円の利益が540万円の利益に減ったとしても、生活が危ぶまれることは通常ないでしょう。しかし、利益が200万円程度でなんとか持ちこたえていた人が消費税を納めることで180万円程度に減ってしまうとどうでしょう?
生活が困窮してしまい、廃業を考えることもあるのではないでしょうか。
例えば、声優やアニメーターなどの中には、インボイス制度を理由に廃業を考えている人もいます。このように、無理な納税によって生活が苦しくなったり廃業に追い込まれたりする可能性があるのが、インボイス制度の問題点なのです。
ただし、全ての個人事業主がインボイス制度の影響を受けるわけではありません。インボイス制度の影響受ける個人事業主と受けない個人事業主について詳しくみていきましょう。
次のような職業の個人事業主は、買い手が課税事業者のケースがあるため、インボイス制度の影響を受けるでしょう。
一般消費者が買い手のタクシーや飲食業などは、インボイス制度の影響を受ける心配はほとんどありません。ただし、領収書を求められた際に適格請求書を発行できず、何らかのトラブルになる可能性があります。
また、個人専門の弁護士や司法書士、ライターなどにおいても、インボイス制度の影響は受けません。ただし、売上高が1,000万円以上の個人事業主が買い手の場合は適格請求書の発行を求められる可能性があるため注意が必要です。
買い手が一般消費者や免税事業者など、課税事業主ではない場合は適格請求書の発行が不要です。つまり、買い手に消費税納税の義務がなく、仕入れ税額控除をする必要がない場合はインボイス制度の影響を受けないのです。
例えば、次のような職業は適格請求書を発行する必要がありません。
個人による私的な利用においては、これらのサービスの利用料金を経費に計上することはできません。売り手に適格請求書の発行を求める必要がないため、売り手はインボイス制度の影響を受けないのです。
また、取引先が課税事業者でも、簡易課税制度を適用している場合は、売り手は適格請求書を発行する必要はありません。簡易課税制度とは、受け取った消費税額に「みなし仕入れ率」をかけて仕入れ税額控除の額を算出する精度です。
みなし仕入れ率は事業に応じて決まっているため、売り手に適格請求書を発行してもらう必要がありません。あらかじめ、現在の取引先に課税事業者かどうか、また簡易課税制度を適用しているかどうかを確認しておきましょう。
インボイス制度が始まっても免税事業者でいるリスクは次のとおりです。
前述したとおり、適格請求書の発行が不要な取引先、客ばかりと考えられる場合は、課税事業者になる必要はありません。そうではない場合は、課税事業者になる方がよいでしょう。
インボイス制度では、経過措置として当面の間は、従来の「区分記載請求書等」であっても、一定割合の仕入れ税額控除が認められます。つまり、免税事業者であっても、しばらくの間は課税事業者から取引を断られにくくなるのです。
経過措置の期間と認められる仕入れ税額控除の割合は次のとおりです。
期間 | 割合 |
---|---|
2023年10月1日~2026年9月30日 | 仕入れ税額相当額の80% |
2026年10月1日~2029年9月30日 | 仕入れ税額相当額の50% |
経過措置があるからといって、免税事業者のままでいても問題ないとは言い切れません。取引先に免税事業者と課税事業者がいる場合、それぞれを分けて経理処理する必要があります。そのため、事務作業の負担軽減の観点から、経過措置期間であっても課税事業者としか取引しない企業も出てくるでしょう。
こればかりは企業によって方針や考え方が異なるため、高い精度で予測することは困難です。
インボイス制度が始まるにあたり、個人事業主は課税事業主になるかどうかを選択する必要があります。2023年10月1日から適用するには、2023年3月末までの申請が必要でしたが、4月以降の申請でも可能になりました。
また、2023年10月1日以降も、適格請求書を発行したい日付の15日前までに登録申請すれば、いつでもインボイス登録が可能です。状況を見つつインボイス登録するかどうかを考える方も、事前準備について確認しておくことをおすすめします。
免税事業者が「適格請求書発行事業者の登録(インボイス登録)」を受けるためには、まず「消費税課税事業者選択届出書」を国税庁へ郵送または電子申請で提出する必要があります。
その後、「適格請求書発行事業者の登録申請書」を税務署へ提出します。すでに課税事業者の場合は、後者の手続きのみでインボイス登録は完了です。
従来の請求書とは異なる適格請求書のフォーマットの準備が必要です。必要な項目を既存の請求書に追記するだけで完了するため、それほど手間はかかりません。また、免税事業者から課税事業者に変更した場合は消費税を含む会計処理も変わるため、会計ソフトの変更も検討しましょう。
知名度が高い会計ソフトのほとんどはインボイスに対応しているため、これも操作方法を調べるだけで準備は完了すると考えられます。
インボイス制度を知り、すぐにも登録したいと思う人もいれば、迷う人もいるでしょう。インボイス登録を検討する際は、次の注意点を押さえてください。
一度、課税事業者になると、課税期間の初日から2年間は免税事業者に戻れません。また、課税事業者が次の課税仕入れを行って、本則課税で確定申告を行う場合は、3年間は免税事業者に戻れないのです。
調整対象固定資産……棚卸資産や土地などの非償却資産を含まない資産のうち、税抜100万円以上のもの
(例)車両や工具、器具、備品、建物、装置など
免税事業者に戻るまでは消費税を納める必要があるため、実質的に所得が減少します。最低でも2~3年先まで見据えて、インボイス登録するかどうかを決めましょう。
インボイス制度には、経過措置が設けられています。適格請求書がなくても、最初の3年間は仕入れ税額の80%、次の3年間は50%を控除できます。そのため、6年間に限り、適格請求書の提出を取引先から求められない可能性があるのです。
ただし、会社の方針で経過措置の期間から課税事業者とだけ取引をするケースも出てくるでしょう。そのため、経過措置があることを踏まえても、2023年10月1日からの開始に備えて準備する方がよいかもしれません。
インボイス制度に反対する気持ちを持つことも大切ですが、「実際に始まってから考える」では機会損失につながります。個人事業主は、1つの仕事が未来につながったり、より大きな仕事を引き受けるきっかけになったりすることがあるため、インボイス制度にぎりぎりまで対応しない方針では、仕事に大きな影響が及ぶ可能性があります。
インボイス登録をしなければ仕事が減る可能性があるかどうかを深く考えて、今後の対応を決めましょう。
消費税は個人のポケットマネーに入れるものではなく、国に納めるものです。そのため、免税事業者が受け取る消費税は、益税と呼ばれています。
インボイス制度に対して、免税事業者が受け取ってきた消費税を国に納めることになるだけだから、益税がなくなる観点から見ればむしろ良い制度と考える方もいます。納めるべき消費税を納めずに済んでいたのは、個人事業主が会社員と比べて社会保障が充実しておらず、同じ所得でも個人事業主の方が生活に苦労するためです。
つまり、「生活が大変だろうから、消費税は特別に納めなくていいよ」ということです。これがなくなると、前述したように生活に困る個人事業主も出てくるでしょう。そのため、インボイス制度は益税がなくなる良い制度とは言えないのです。
インボイス制度は、その複雑性から「よくわからないから放置する」「税理士に全部任せればいい」という方針の方も多いでしょう。しかし、制度の全ぼうを理解しない場合、登録する・しないにかかわらず、誤った選択をする恐れがあります。
今回は、「個人事業主の仕事が減る可能性」の観点から、インボイス制度について解説しました。インボイス登録を検討している方やインボイス制度について理解したい方は、ぜひ参考にしてください。